人と、川・アユの関係研究所

人と、川・アユ(意見)

巨アユについて考える

更新日:2018年6月
尺アユが育つ条件
アユ研究の大御所、石田力三さん(故人)は、アユが大きく育つ川の条件として、①大河川であること、②温暖な地方にあること、③水がきれいなこと(砂泥による濁りが少ないこと)という3つの条件をあげている。
巨アユが狙える五ヶ瀬川カンバの瀬尺アユを狙って釣れる川として富士川、紀ノ川、揖保川、江の川、吉野川、四万十川、球磨川、五ヶ瀬川などが頭に浮かぶ。いずれも流程が100kmを超えるような大河川である。やはり、大きな川であることが大アユを産する条件の一つとなっているようだ。 ただ、流程が短い高知県の河川(17kmの羽根川、30kmの安芸川、60kmの奈半利川)でも尺アユを観察したことがある。近年尺アユ狙いで名前を耳にすることが多い福岡県の矢部川も流程67kmの中規模河川である。

つまり、単純に器が大きければ良いということではなく、大河川にありがちな特性が大アユを育んでいると考えるべきであろう。その特性というのはたぶん①アユの生息密度が低いことと、②竿や網の届かない場所が広く存在することである。②の広さの問題は、ご理解いただきやすいと思う。尺に育つまでに釣られては元も子もないわけで、大河川ほど竿抜けしやすく、尺になるまで生き残る確率が高くなる。
①の生息密度に関しては、アユがたくさんいる川では釣れるアユの平均サイズが小さくなることを思い出していただきたい。生息密度が高いと1尾あたりの餌場が狭くなるということだけでなく、なわばりの確保(侵入アユへの攻撃行動)にもエネルギーを使うし、なわばりを守るために時間を浪費し、餌を食べる回数そのものが減ってしまうからである。密度が低いほど餌を食べることに専念できることで多くのエネルギーの獲得につながり、その獲得したエネルギーを体成長に回す割合も大きくなるのである。

石田さんがあげた条件の2つめの「温暖であること」は、東北の河川で尺アユが少ないことを考えれば納得できる。アユの生息適温は15~25℃で、この水温帯であれば水温が高いほど活発に餌を食べる。そのため、早期から水温が上昇しやすい「温暖な気候」というのは尺アユに育つために重要な条件となる。また、餌となるコケ(付着藻類)の生育も基本的には水温が高いほど良くなるので、餌の供給という面からも温暖であることは重要である。

見落としがちなこととして、温暖な地方ではアユの河川生活期間も長くなることをあげておきたい。例えば北海道のアユは5月に遡上して、9月にはほぼ産卵を終える。それに対して南国高知では、2月から遡上が始まり、産卵は早くても10月中旬である。アユは河川に遡上してからの成長速度が大きいことを考えれば、河川生活期間が長いというのは尺まで育つ上でかなり有利な条件となる。  
ただし、水温が高ければ良いかというとそんな単純なものでもない。アユは変温動物なので水温が高くなると、代謝スピードも速くなる。いくら頑張って餌を食べても基礎代謝にエネルギーを奪われて、体成長に回せる割合が低くなる。夏場の水温が28℃を簡単に超えてしまうような川では、尺には達することはできても巨アユと呼ばれるようなアユに育つのは難しくなるだろう。

友釣りで採集したアユの胃の中の砂泥の割合とアユの肥満度の関係 石田さんがあげた3つめの条件、「水がきれいであること」は、餌となるコケの生育が良い(光合成が阻害されない)ということと、食べた餌に砂泥の混入が少なくて餌料効率が良いということと関係する。以前に和吾郎さん、藤田真二さん(ともに西日本科学技術研究所)と物部川(高知県)で友釣りで採集したアユの成育状態を調べたことがある。アユの胃の中に含まれていた砂泥(コケに付着していたもの)の割合とアユの肥満度の関係を見てみると、図のように胃の中に砂泥が多ければ、アユの肥満度は低下した。
どういう仕組みかというと、川が濁るとコケに付着する砂泥が多くなる。そうなると、同じ量の餌を食べても砂泥が含まれる分、栄養価が落ちてしまうのである。ただ、分析に用いたサンプルはすべて友釣りで採ったものである。友釣りができるぐらいの弱い濁り(見た目は、きれい~笹濁り程度)であってもアユの成長にはマイナスになるというのは、意外な事実であった。
アユは40cmに達するか?
私が知っている(確認できた)範囲での最大のアユは、宮崎県五ヶ瀬川日之影町で1994年10月に釣られた全長36.5cm、体重600gという個体である。実際にはさらに大きなアユがいるようで、球磨川で鮎釣りのガイドをしていた韮塚智彦さんによると、球磨川では写真のような38cm(拓寸)のアユが釣られており、韮塚さんの釣りのお師匠さんは、「戦前に五ヶ瀬川で尺2寸8分(38.8cm)の巨アユを釣ったことがある」と話していたそうだ。
球磨川の巨アユ。尾びれがきれいに写っていれば、全長38cmを超えていると推定される。下のアユは全長28cm(写真提供:韮塚智彦さん) では、可能性としてアユはどのぐらいまで大きくなることができるのだろうか?実はこれを正確に検討するのは難しい。もちろん、大きな飼育池で飼って確かめることはできるのだろうが、それが自然の川で再現されるという保証はない。川の中で定期的に調査を行って、集団の成長を観察することは可能ではあるのだが、これだと友釣りで大きなアユから漁獲されれば、実際よりも成長を過小評価してしまう。個体別に追跡することが必要なのだが、現実的には不可能である。

ということで、ちょっといい加減な話になってしまうが、河川で得たデータから推定してみた。
これまでの全国の河川でアユを観察した経験から言えば、現在、アユの成長速度が最も速いのはたぶん北海道。寒い地方なので意外に思われるかもしれないが、短い夏に急かされるように短期間で劇的に大きくなる。  
道南を流れる朱太川で、2014年7月に間野静雄さん(当時三重大学)と2人でアユを採集し、耳石(内耳にある硬組織)に含まれるSr/Ca比(ストロンチウム・カルシウム比)を調べてみた。Srは海水に多く含まれ、淡水には少ないので、その比率とアユの日齢を調べれば、そのアユが河川(淡水)に遡上した時期が特定できる。
朱太川の上流部で7月23日に友釣りで採集した全長186.7mmのアユの遡上日は、5月31日と推定された。朱太川の遡上時の平均サイズは83mm(前年に調査した)であったが、やや大きめで遡上したと仮定して、遡上サイズを100mmとする。そうすると、5月31日に遡上して、7月23日に採集されるまでの53日間での成長量は86.7mmになる。この間の平均日成長量は1.64mm/日と計算される。このあたりが河川でのアユの日最大成長量に近いと考えられる。この値を温暖な地方の河川に当てはめれば、アユの最大サイズを推定することができる。

先に紹介したとおり、高知での遡上は2月上旬から始まる。ただ、成長が良くなるのは水温が上昇する3月から。成長が止まるのがいつなのかは正確には分からないのだが、生殖腺が大きくなる9月には体成長はほとんど止まっているとすると、実質的な成長期間は3月から8月の6ヶ月間(184日)となる。この間に先ほどの成長量で大きくなるとすれば、1.64mm×184日=301.76mmとなる。遡上時のサイズを全長100mmとすれば、100+301.76=401.76mm。全長40cmに達することになる。
もちろん、成長期間中には大雨でコケが飛んでしまうこともあるので、コンスタントに成長できる可能性は低く、現実的には35~36cmが精一杯ではないだろうか。
しかし、平均日成長量1.64mmを算出した朱太川のサンプルは、それほど大きなアユではなかった。採集と併行して行った潜水観察では、少なくとも23cmに達したアユを確認している。このアユの日成長量は1.64mmを上回る1.7~1.8mm/日と見積もられ、その成長量だと全長40cmに育つことが現実味を帯びてくる。
竿も網も入らない大河川の深瀬や大トロ。このような場所で育った巨アユは産卵も目に付きにくい荒い深瀬で行うことが多い。人には一度も姿を見せないままに、その一生を静かに閉じているのかもしれない。

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