人と、川・アユの関係研究所

アユ学概論

減りつつあるアユ資源

海産アユの資源量に関しては、長期間にわたる継続的な調査資料がないため、実態は正確には把握されていない。しかし、海産稚アユの採捕量や河川産アユの採捕量の統計資料(漁業・養殖業生産統計年報)を概観すると、ともに1970-1980年頃から顕著な減少傾向にあり、天然のアユ資源が減少傾向にあるのは確実と言える。
また、全国的に見て、アユの漁獲量は1992年以降減少し続けており、その主な要因の一つが「天然アユ(海産アユ)の減少」にあることも指摘されている。
海産アユの資源量減少の要因は河川の荒廃(ダムの建設、水質汚濁等)や濫獲など多岐にわたると考えられており、近年では冷水病による大量死も指摘されている。一方、天然アユを増やす対策を科学的に講じて、資源が回復した事例も最近増えつつある。

デフレ時代のアユ
更新日:2014年10月
2014年、西日本の広い範囲で天然遡上が極端に少なかった。太平洋側も日本海側も悪いというのは、少なくともこの10数年の間では初めてのことではないだろうか。一方で、北陸は一転して大量遡上に恵まれ、太平洋側では神奈川から北関東あたりも遡上量が多い。
このような天然アユにおける地域差を見ていると、その増減が単に河川ごとではなく、広い地域(少なくとも○○地方というレベル)で起きていることが分かる。そして、残念なことに私の住んでいる高知を含む西日本は、アユの「生息域」ではあるものの、「生息適地」からは外れつつあるように思えてならない。

高知の奈半利川でふ化したアユ仔魚の数(奈半利川の場合、産卵域が海から1km以内に集中しているので、=海に出た数とみなすことができる)と翌年の遡上数(5月中下旬時点)を10年ほど前から調べている。この両方のデータがあれば、奈半利川への回帰率(アユの場合、母川回帰性があるわけではないが、高い確率で母川回帰していると考えられている)を計算することができる。かなりラフな試算ではあるが、奈半利川の場合1/700~1/4500まで大きな年変動が見られる。
そして、西日本で天然遡上が極端に少なかった2014年の回帰率は、これまでで最低の1/4500でしかなかったのである。
このようにアユの回帰率が大きく年変動することは以前から知られていたが、その理由はまだはっきりとは分かっていない。しかし、回帰率が低い年に共通している現象はある。早く産まれたアユ(高知県だと10~11月)の減耗が著しく高いのである。遅生まれが主体となるため、遡上サイズは全体的に小さくなる。同じような現象は西日本から東海付近にかけての広いエリアで報告されている。特に高知の河川ではこのような傾向が頻発しており、それから類推すると西日本ではアユの回帰率が悪い年が表れる確率が近年高くなっているようである。

天然アユ資源は流域に与えられた「基金」のようなものである。その「基金」をうまく運用して、利子分(再生産に必要な資源量を差し引いた余剰的な資源)を漁獲している限りは、資源の減少は起きないということになる。利率(=回帰率)が高い(つまりインフレ)時代は、かなり乱暴に漁獲しても資源が減少することはなかったのだが、今の西日本のようにデフレ時代(低回帰率)に突入すると、よほど慎重に資源(元手)を管理しないと、あっと言う間に資源が減少(元本割れ)してしまう。
基金を取り崩して、とりあえずの急場をしのぐのか、はたまた、事業規模(漁獲)を絞ってデフレを乗り切るか。どちらにしても確実な将来は見通せない。小心者の私なら、後者を選択します。

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