人と、川・アユの関係研究所

アユ学概論

アユの肥満度(近年のアユは痩せている)

肥満度とは
1990年代と2000年以降のアユの肥満度の比較

アユの成育状態をみるための基本的なデータである体長(SL)と体重(W)を計測することが多い。それらの計測値を使って、成育状態の良否の目安となる肥満度(K)を計算できる(下記の式)。

K=(W / L3)×1000

図1の上段は、1990~1997年にかけて四国内の河川(伊尾木川、吉野川等)で友釣りと投網で採集した4,415個体の肥満度の頻度分布を示したものである。肥満度のモード(最頻値)は15.1~16.0で、15~18の範囲にあるものが全体の64%を占めており、このぐらいの肥満度がアユの「標準」であった。肥満度18を超える個体も10%程度おり、20を超える個体すら1%含まれていた。アユの場合、肥満度が18を超えると、かなりボリューム感のある体型となり、「肩が盛り上がった」と表現されるようなアユの肥満度は20前後となる。

上:肥満度19 下:肥満度12
最近のアユは肥満度が低下している

2000年以降に、90年代と同じように四国内で友釣りと投網で採集した1,598個体の肥満度(図1中段)を計算してみると、モードは15.1~16.0で、1990年代と変わらない。しかし、肥満度が18を超えるような肥ったアユの割合が明らかに減少しており、1990年代に10%だった18.1以上の個体の割合は、2000年以降ではわずか1%に過ぎなかった。また、四国を除く九州~東海で採集したアユ787個体についても同様に見てみると、モードは14.1~15.0と1段階下がり、18を超える個体は1.5%とごくわずかであった(図1下段)。

2000年代に入ってアユが痩せ気味であるというのは、少なくとも東海から以西では間違いないようだ。

肥満度低下の原因

原因についてははっきりとはしないが、いくつかの要因は指摘できそうである。

一つは、「人工アユ」の放流割合が1990年代に比べて増えていることである。1990年代は放流種苗の主体は琵琶湖産であったが、冷水病を持ち込むために敬遠されるようになり、近年では主流は海産系の人工アユに代わっている。この人工アユの中には、どういう理由なのか判然としないものの、夏季になると痩せ気味の個体が多くなる傾向がある。

天然アユ(上)と人工アユ(下)の肥満度の比較

図2は四国内のA川で2016年6月と8月に採集したアユを側線上方鱗数の違いによって天然アユと人工アユに判別したうえで、肥満度を比較したものである。明らかに人工アユの肥満度が低い。このような現象は多くの地域のサンプルから検出される。そのため、成育状態の悪くなる人工アユの比率が高くなっていることは、近年の肥満度低下の一因となっている可能性がある。

2つめは、冷水病の影響で、この病気は1990年代に全国的に拡大した。特に2000年代に入ってからは、出ないことがないというほど蔓延しており、アユの減耗要因の一つとなっている。この冷水病にかかるとアユは体調が悪化し、痩せることが多い(餌を食べなくなる)。こういった冷水病の影響が近年の肥満度低下に影を落としている可能性もある。

3つめは、まったく感覚的な話なのだが、川に潜っていて、最近コケ(付着藻類)が薄くなったと感じており、アユが十分な栄養を取りづらくなっているのではないかということ。理由として、河川水質の変化(栄養塩や微量元素の不足)を疑っているのだが、他にも川虫(ヤマトビケラの仲間)や巻き貝の異常繁殖によるコケの消失も目にするので、単純なものではないかもしれない。

異常な肥満度・北海道朱太川

このように全国的に見るとアユの肥満度は低下しているのだが、そんな傾向とはまったく関係ない川もある。北海道の朱太川は体高の高い「幅広アユ」が観察される(図3)。この朱太川のアユについては、当HPの「稚アユの放流を止めた朱太川」でも紹介しているので、参照して欲しい。

朱太川の天然アユ

この朱太川で2014年に友釣りによって採捕したアユの肥満度を計測してみると、モードはなんと18.1~19.0にあり、18以上の非常に肥ったアユの割合が84%に達していた(図4)。朱太川のアユの肥満度東海以西ではほとんど目にすることのなくなった20を超える個体ですら20%近くに達している。他に類を見ない肥り方である。

短い夏に一挙に成長するために活発に摂餌するという北限域のアユの宿命が反映された体形と想像されるが、西日本のアユを主体に観察している私にとっては信じがたい肥り方である。

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