人と、川・アユの関係研究所

人と、川・アユ(意見)

天然アユを棲めなくする3つの要因

更新日:2024年5月

アユにダメージを与える3つの要因

全国各地から「天然アユが減った」という声を聞くようになって久しい。2015年に岐阜市が長良川の天然遡上アユを準絶滅危惧種に指定した(その後2023年に解除された)。鮎釣りのメッカとも言える河川での指定であっただけに、インパクトは大きかった。

なぜ、天然アユは減少しているのか?それは様々な理由からアユが生活史を完結しづらくなっているからなのだが、天然アユを棲みづらくしている要因の中で、その影響力が大きいのは次の3つと考えている(全国各地の河川を見てきた経験からの私見です)。

・ダムの建設(図1)
・河口堰の建設(河川の下流に造られた規模の大きな堰)(図2)
・海岸線の人工化(図3)

図1 ダム。長い年月の間に下流河川を大きく変化させる

図1 ダム。長い年月の間に下流河川を大きく変化させる

図2 河口堰。仔魚の流下を阻害する

図2 河口堰。仔魚の流下を阻害する

図3 垂直護岸。海岸線が人工化されることでアユの保育場が消失する

図3 垂直護岸。海岸線が人工化されることでアユの保育場が消失する

天然アユの減少は、大河川において顕著で、地方の中小河川ではそうでもないという傾向がある。ダムや河口堰はその効果を出すためにはある程度以上の規模でないと費用対効果が出にくいため、おのずと大河川に建設されやすいということがその理由だろう。

それはともかくとして、この3つが揃ってしまうとほぼ確実にアユは姿を消していくことになる。実際にこの3つの要因が揃った岡山県や広島県の瀬戸内側の河川では、天然アユの資源量はきわめて低水準で、関係者らがその回復に努力しているものの、残念ながら回復の兆しは見られない。

ダムが与えるダメージ

3つの要因にもう少し説明を加えると、まず、ダムはアユの生息域を縮小してしまうという点が大きい。アユは河川での生息密度の調節を遡上範囲を変える(遡上上限を上下させる)ことによって行っているので*1、ダムのように分布を制限する構造物を造られてしまうと、個体群の密度調節ができなくなり、結果的に成長不良や産卵量の減少という危機に追い込まれる。アユのように資源量の年変動が大きい(10倍レベル)生き物では、密度調節ができなくなるというのは非常に危険なことなのだ。

また、ダムによって洪水の頻度や規模が低減されることで、川底の攪乱、言い換えれば川底の新陳代謝がなくなって、長期的(40~60年)には川底がダメ(アーマーコート化、河原の樹林化による河道の固定等々)になる。下流部まで粗粒化が進んでしまうとアユの産卵場が消失することもある。実際、宮崎県の一ツ瀬川では本流にはアユの産卵適地が無くなってしまい、天然アユの資源水準は著しく低下した状態になっている。

さらには、ダムによって下流河川に濁水の長期化が起きると、冷水病等の疾病を介してアユの死亡率を大きく高めることも報告されている*2

河口堰が与えるダメージ

二つ目の河口堰(アユの主産卵場よりも下流に造られた規模の大きな堰)は、稚アユに対する遡上阻害も無視できないが、こちらは現在の技術で何とかカバーできる(できていないところも少なくないが)。影響が大きいのは、堰の上流の産卵場からふ化した仔アユが海へと流下することを阻害する点。

河口堰のようにアユの産卵場の下流に造られた堰の貯水池では、遊泳力のない仔魚(図4)はトラップされる。堰の最大の役目である貯水は、見方を変えれば流速を遅くすることに他ならず、アユ仔魚が海へと流下する時間を大きく延長してしまう。

図4 ふ化直後のアユの仔魚。卵黄のエネルギーは実質3-4日分。

図4 ふ化直後のアユの仔魚。卵黄のエネルギーは実質3-4日分。

長崎大学の井口恵一朗さんらの研究*3によると、アユの仔魚が卵からふ化した時点で卵黄に保有している「生きるためのエネルギー」は実質的には3~4日分で、そのタイムリミットを過ぎてしまうと飢餓に陥り、その後しばらくは生残していたとしても、そこからの回復は見込めない。卵黄を保有した状態で次なる生息場となる河口域や海域に到達できるかどうかが、生死の分かれ目となるのである。おまけに、アユの仔魚は昼間は底層に沈降する性質がある。この習性が堰の貯水池の通過時間をさらに延長することになり(単純に考えれば2倍に延長)、長い貯水池を3~4日で通過するのは、意外に困難なことなのだ。

また、河口堰が取水を目的としたものであるなら(多くの場合そうである)、流下中の仔魚が取水口へと取り込まれ、海に出られなくなるということも起きる。アユ仔魚は遊泳力がないだけに、懸濁物のように流下する。そのため、河川流量に占める取水量の割合に応じた被害(取水口への取り込み)が出ていると想像される。遡上期の稚魚と違って、流下中の仔魚には能動的な逃避能力がないため、この被害を食い止めることは技術的には不可能に近い。

以上のような理由から、アユの産卵場の下流に規模の大きい堰(=貯水池が大きい)のある河川で天然アユ資源が高水準で維持されている河川は、筆者の知る限り、ない。当然のことながら、そのような河川では天然アユを増やすことも難しい。

海岸線の人工化が与えるダメージ

三つ目の海岸線の人工化は、自然海岸(図5)を埋め立てて、水際を図3のような垂直護岸にすることで、アユ仔稚魚の保育場となる緩勾配の浅場(図6)を消失させる。砂浜海岸というのは、意外にも稚魚の餌となるプランクトンなどが豊富で、かつ、捕食者が少ない。そのため、アユだけでなく多種の仔稚魚に保育場として利用されているのである*4

図5 アユの保育場となる砂浜海岸

図5 アユの保育場となる砂浜海岸

図6 波打ち際に群れるアユ仔魚

図6 波打ち際に群れるアユ仔魚

ただ、砂浜海岸がアユ仔稚魚の重要な生息場(保育場)になっていることが分かってきたのは比較的最近になってのこと。アユだけでなく多くの沿岸魚の稚仔も砕波帯と呼ばれる浅い波打ち際を利用しているのだが、そういうことが分かってきた時(1980年代)には、工業地帯を中心に多くの海岸が埋め立てられていたのである。

近年、筆者が心配しているのは、全国各地で行われている養浜(海岸浸食防止)事業である。これは川から土砂の供給が少なくなって、砂浜が痩せていくことへの対策として行われているもので、離岸堤を設置することが多い(図7)。離岸堤の裏側(陸側)は波が穏やかになることで、砂が貯まり浜が広がっていく。防災という面からは有効なのだが、先の通り、砂浜海岸は多くの仔稚魚の保育場である。生態系の保全に配慮して事業が進められているのかは、いささか心配な面がある。というのも、養浜が進むと、砂浜は離岸堤まで達する(図8)。そうすると、確かに砂浜ではあるのだが、その先端(沖側)は離岸堤でほぼ垂直に切り立っており、物理的な構造は垂直護岸と大差はない。はたして、稚魚たちは保育場として利用できているのだろうか?

図7 海岸浸食防止のために設置された離岸堤

図7 海岸浸食防止のために設置された離岸堤

図8 離岸堤の岸側が満砂状態となると離岸堤が護岸のようになってしまい、浅い波打ち際が失われる

図8 離岸堤の岸側が満砂状態となると離岸堤が護岸のようになってしまい、浅い波打ち際が失われる

軽減対策はあるか?

この3つがそろうとほぼ天然アユは全滅に近くなるし、回復させることは難しい。しかし、ダムだけだったら、高知県奈半利川のようにダムによる悪影響を軽減したり、かつての環境を復元することで天然アユを回復させることができる(本HPの「天然アユを増やす取り組み」をご参照ください)。

また、海岸線の人工化も部分的にでも砂浜海岸を復活させることが対策となるだろう。多摩川で天然アユが復活した理由の一つは、東京湾の沿岸にビーチを復活させたこと(羽田空港の人工砂浜等)にあると言われている*5

河口堰については今のところ有効な対策は見当たらないが、ゲートの運用(開門)によって悪影響を低減させるような対策の具体化が期待される。

  • *1 高橋勇夫・間野静雄. 2022. 遡上行動を阻害する構造物が無い北海道朱太川における天然アユの流程分布. 応用生態工学. 25(1): 1-12.
  • *2 高橋勇夫・岸野底. 2017. 奈半利川におけるアユの生息数と減耗率の潜水目視法による推定. 応用生態工学. 19(2): 233-243.
  • *3 井口恵一朗・坂野博之・武島弘彦. 2010. 異なる塩水条件下におけるアユ孵化仔魚の飢餓プロセス. 水産増殖, 58(4): 459-463.
  • *4 Senta T. & I. Kinoshita. 1985. Larval and juvenile fishes occurring in surf zones of western Japan. Trans. Am. Fish. Soc., 114: 609-618.
  • *5 田辺陽一. 2006. アユ百万匹がかえってきた. 小学館, 東京, 239 pp.

アユ学概論

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