人と、川・アユの関係研究所

人と、川・アユ(意見)

アユのリュウキュウアユ化(温暖化に追われるアユ)

更新日:2024年5月

一番仔がいなくなった!

一番仔(いちばんご)と呼ばれるアユがいる。言葉のとおり、その年に最も早く遡上してくる群のことで、大きく成長する(可能性が高い)ため、漁協の人や釣り人には喜ばれる。

一番仔の正体は、早生まれでかつ高成長の集団で、「遡上期の初期に遡上してくる、サイズの大きな稚アユ」と定義できる。具体的なサイズとしては、標準体長では70mm以上(全長では85mm以上)、体重10g以上というあたりが目安となる。単に早期に遡上してくるというだけでなく、体サイズが大きいということがポイントとなる。もっとも、遡上期の稚アユの体サイズは「早期ほど大きい」のが一般的なので、遡上期の初期の稚アユは「一番仔」と呼ばれる資格を有していることが多い。

土佐湾から遡上してくる稚アユでも、1990年代の前半までは一番仔が安定的に見られていた。ところが、ここ15年ぐらい(2000年代に入った頃から)、遡上初期の2~3月に一番仔と呼ぶにふさわしい大型の稚アユが見られることはほとんどなくなった。替わって遡上しているのは、「もう少し海にいた方がいいんじゃない?」と言いたくなるような体長45~60mm、体重0.7~2g程度の小型のアユ(図1・2)。

図1 奈半利川で2024年3月上旬に採集された稚アユ。小さいものは体長50mm

図1 奈半利川で2024年3月上旬に採集された稚アユ。小さいものは体長50mm

図2 奈半利川を2月に遡上する小型の稚アユ

図2 奈半利川を2月に遡上する小型の稚アユ

これまで取ってきたデータ(高知県奈半利川の河口に近い定点で採集)で確認してみると、3月上~中旬に採集した稚アユの体長を見てみると、2009年から2023年の15年間で一番仔と呼べる体長70mm程度のアユが多く採集されたのは2018年のみであった(図3)。そして、この15年間で最も体長が大きかった2018年3月の平均日齢(生まれてからの経過日数)は113日であったのに対して、平均体長が最小だった2014年は90日であった。つまり、遡上サイズの小型化の一因は、海での生活期間が短くなったことにあると言える。

図3 奈半利川で3月上中旬に採集した稚アユの体長。バーは標準偏差

図3 奈半利川で3月上中旬に採集した稚アユの体長。バーは標準偏差

海域生活期短縮のメカニズム

一番仔が少なくなった原因、言い換えれば、海域生活期間が短縮された原因は、1990年代半ばから顕著となってきた日本近海の海水温の上昇(図4)にあると考えている。土佐湾では晩秋から冬季、つまりアユが海域で生活する時期の海水温が著しく上昇している(高知県水産試験場HP「土佐湾における表面水温の上昇」)。これがアユの海での生活に変化をもたらしているようなのだ。

図4 日本近海の全海域平均海面水温(年平均)の平年差の推移(気象庁HPより転写)(この100年間上昇傾向にあり、とくに1990年代半ばからの上昇傾向が顕著)

図4 日本近海の全海域平均海面水温(年平均)の平年差の推移(気象庁HPより転写
(この100年間上昇傾向にあり、とくに1990年代半ばからの上昇傾向が顕著)

なぜ海水温の上昇が問題となるかというと、アユは北方系のキュウリウオ科の近縁であり、海域での高水温への耐性が弱い*1*2。海水温が上がることで、アユの稚仔が心地よく海で生活できる期間は短くなってしまう。このアユの出自に関わる特性をまず頭に入れていただいたうえで、以下の考察へと読み進んでいただきたい。

近年の気温の上昇は、秋の水温の低下の遅れを介してアユの産卵期を遅らせており、一番仔の元となっていた早生まれ(土佐湾流入河川では10月下旬から11月上旬生まれ)は少なくなりつつある。そのうえに、早生まれがたどり着いた海の水温は20℃を大きく超えているため、早生まれの死亡のリスクは高い。実際、土佐湾では海水温が20℃以上の時期に海に下った仔アユの生残率が低いことも報告されている*3。早生まれは、産卵の遅れで少なくなったうえに、近年の海水温の上昇で生き残りにくくなっているのである。これが土佐湾流入河川から一番仔が消えた最大の理由だろう。

一方で、冬季の海水温の上昇は、早生まれ以外のアユたちにも影響を及ぼしている。アユの仔稚魚は高塩分下(つまり海域)では水温が高くなると生残率が低下する*1。高水温下では塩分耐性が弱くなるのである*2。そのため、冬季の海水温の上昇に伴い、海域生活を早めに切り上げて河川に遡上する必要に迫られることになった。

結局、海で生き残ることができるのは、生まれ時期が相対的に遅いアユで、彼らも海水温の上昇に追い立てられるように遡上期が早くなる。そのために海域生活期間が短くなり、十分な成長が得られないままに、小サイズで川に遡上しているというのが実態のようだ。

リュウキュウアユ化するアユ

このような海域生活期間の短縮によって生き残りを図っているのが、アユの亜種であり亜熱帯の奄美大島に生息するリュウキュウアユである。奄美大島でリュウキュウアユを詳しく調べた岸野底さんによると、リュウキュウアユの海域生活期間は50~90日程度と短く、河川への遡上サイズは25~40mmと小さい*4いわゆる「シラスアユ」の状態で川に遡上して来るのである。20℃以下の低水温期がごく短い奄美大島で生き抜くために、リュウキュウアユは海域生活期を短くする方向へと特化(適応)したと考えられている*4

土佐湾から遡上してくるアユの小型化現象も、短くなった低水温期間に対応するために、海域生活期を短縮した結果と考えられる。アユのリュウキュウアユ化である。土佐湾を保育場としてきたアユにとって、海はだんだん棲みづらい場所となっていると言えるのかもしれない。

遡上サイズの小型化がもたらす危機

このように懸命に生き残りを模索しているアユにとって気の毒なことは、日本のほとんどの河川には堰があることで、魚道は造られていても、小型で遡上するアユには対応していないため、大きな障害となってしまう。実際、高知県の河川では水温が低い2~3月に遡上してきたアユが最初の堰を越えることができずに堰の直下に密集している姿をよく見かけるようになってきた(図5)。

図5 小型で泳力が小さいために魚道を上れない稚アユ(2021年2月14日:安田川)

図5 小型で泳力が小さいために魚道を上れない稚アユ(2021年2月14日:安田川)

堰の直下では、密度が高くなりすぎることで餌不足になり、痩せた個体も観察される。過密となることがストレスとなり、免疫力の低下を介して疾病による死亡率が上昇することも心配される。

また、小サイズで遡上してきた場合、アユの主食である付着藻類を食べるための準備ができていない。藻類を食べるための櫛状歯(しつじょうし)が完成するのは体長が55mm頃なので、それよりも小さいサイズで遡上してきた場合は、藻類はうまく摂取できないことになる。実際、3月中旬以前に小型のアユが遡上しているケースで、石礫の表面にハミ跡が見られることはごく少ない。プランクトンがいない川に遡上してきた小型のアユが食べられそうなものは、流れてきた藻類のかけらや水生昆虫の幼生ぐらいしかないように思える。小型で川に遡上してきたために、飢餓による死亡率も高くなっているのではないかと心配している。

進む温暖化、最悪のシナリオ

今後さらに進行するであろう温暖化に対して、アユはどのように生き抜くのだろうか?

変温動物であるアユは水温の上昇に伴い、代謝スピードも上がる。高成長が期待できるが、それには外部栄養(餌)を十分に摂取できることが必須条件となる。栄養豊富な陸水が沿岸域に供給され、アユ仔稚魚の餌となるプランクトンが豊富に発生すれば、このシナリオは成立するが、そんなにうまくはいかないだろう。高水温下の速い代謝スピードを支えるための餌量が得られない場合は飢餓に陥り、死亡率が上がることが予想される。海はかつてのようなアユの稚仔の「ゆりかご」とは言えなくなりそうである。

おそらくは、アユはさらにリュウキュウアユ化し、海域生活期の短縮が進むだろう。温暖な高知ではすでに産卵期の遅れと遡上期の早期化が目に見えて顕著になってきており、2020年には1月末に遡上が始まった。

最悪とも言えるシナリオは、小型のアユでは漁獲対象にならないとばかりに、漁協さんがその対策として種苗放流を増やすことである。放流される種苗のサイズが天然の遡上魚よりも大きければ、放流アユが河川内での優位な地位を獲得することになり、たとえばナワバリの形成を優位に進めることができる。結果的に高成長が得られ、放流アユの繁殖成功度は高くなる。一方の天然アユは、放流アユに生態的地位を圧迫され、小型化する*5ことで次世代を残すうえで不利な立場におかれる。天然魚の持つ遺伝的な多様性、地域への適応性が縮小するようなことになってしまえば、天然アユ資源の存続すら脅かされるかもしれない。

皮肉な言い方になってしまうが、現在、漁協が経済的に厳しい状況に追い込まれている。このことが、放流量増大の歯止めとなる。結果的にはアユの温暖化への対応を見守ることにつながりそうである。

  • *1 Iwai T. 1962. Studies on the Plecoglossus altivelis problems: Embryology and histophysiology of digestive and osmoregulatory organs. Bull. Misaki Marine Biol. Inst., Kyoto Univ., (2): 1-101.
  • *2 Iguchi K. Y. Tanimura, & H. Takeshima. 2011. Effect of saline water on early success of amphidromous fish. Ichthyol. Res., 58(1): 33-37.
  • *3 Takahashi I., K. Azuma, H. Hiraga & S. Fujita. 1999. Different mortality in larval stage of ayu Plecoglossus altivelis in the Shimanto Estuary and adjacent coastal waters. Fisheries Sci., 65(2): 206-211.
  • *4 岸野底・四宮明彦. 2005. 奄美大島住用湾および焼内湾周辺におけるリュウキュウアユ仔稚魚の回帰遡上. 魚類学雑誌, 52(2): 115-124.
  • *5 間野静雄・淀大我・石崎大介・吉岡基. 2014. 長良川におけるアユの由来別の成長特性. 水産増殖, 62(1): 89-97.

アユ学概論

人と、川・アユ(意見)

ギャラリー

※当サイトで紹介した方の組織名・所属等は、執筆時点での情報です。
ページのTOPへ遡上