人と、川・アユの関係研究所

人と、川・アユ(意見)

放流しているのになぜ釣れない?

更新日:2013年10月
種苗放流効果の低下
今、各地の河川で種苗放流だけでアユ漁場をつくることには限界が見えているのだが、1990年前後、放流すれば釣れる漁場ができていたことも事実なのである。では、今なぜ昔のようにうまくいかないのだろうか?
まず、最初に思い浮かぶのは、放流した種苗の生残率の低下である。まだ、アユの冷水病が国内で発生していなかった1990年頃、放流したアユの歩留まりは60-80%と推定されていた。
ところが、冷水病が日本の河川に蔓延して以後は、これが極端に低下しており、場合によっては10%を切る事例も報告されている。私自身もそういった事例を少なからず観察したことがある。すべての河川でそのように悪いわけではないものの、平均的にみると40%程度まで落ちているのではないだろうか。つまり、生残率はかつての半分近くにまで低下しているのである。
二つ目の理由は種苗サイズの大型化である。1990年頃の種苗サイズは3~5g程度であったのが、冷水病対策として大型種苗が推奨されたこともあって、近年の放流サイズは10g程度になっている。放流種苗は重量で取引されるので、単純に考えると同じ経費で、かつての半分以下の尾数しか放流できないことになる。
生残率が半分で、放流尾数も半分であるから、この変化だけでも放流効果(費用対効果)はかつての四分の一程度に低下していることになる。さらに悪いことに漁協の収入不足からその放流経費も大きく減っているところも少なくない。
もともと放流だけで漁場を維持することは無理だった?
もう一つ、身も蓋もない話しなのだが、もともと放流のみでアユ漁場を維持するというのはかなり難しいことであったのかもしれないのだ。
きちんとした漁場管理を提案したいと思い、漁協の管轄している河川の面積を測量してみて分かってきたことなのだが、漁場面積から必要な放流尾数を計算してみると、ほとんどの河川で実際の放流尾数が必要量を大きく下回るのである。この傾向は規模の大きい川ほど顕著である。つまり、容器の大きさからいうと1000匹必要な釣り場に実際は100匹しか放流されていないというようなことが普通に起きているのである。
この原因の一つは先のような近年の放流サイズの大型化にあるわけだが、それ以前の問題として、漁場面積が広すぎて放流で漁場を形成するのは「経済的に絶対に無理」と言える河川が多いのである。そういった川で、かつてアユがよく釣れていたのは、まだ天然遡上がそれなりに多かったからで、その恩恵にあずかっていたのにもかかわらず、そのことを過少評価していたためではないだろうか。
天然アユを過小評価
今、実際に各地の河川で釣ったアユを調べてみると、「解禁当初は放流物しか釣れない」と言われている多くの河川で、解禁当初から天然アユがたくさん釣れているのである。
「魚が少ないのなら放流すればよい」と言う人は多い。この考え方がいかに多くの問題を抱えているのか、もうそろそろ気がつくべきだろうと思うのである。

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