人と、川・アユの関係研究所

人と、川・アユ(意見)

世界農業遺産と絶滅危惧種

更新日:2016年4月
2015年「清流長良川の鮎」が世界農業遺産に認定された。世界農業遺産とは、伝統的な農業とそこで育まれてきた技術、文化、風景、生物多様性等を保全するために、世界的に重要な地域を国連食糧農業機関(FAO)が認定するもので、持続可能な農業の実践地域が対象となる。

長良川は日本屈指の清流であり、流域に80万もの人口を抱える河川であることが信じられないほどに、水の透明度は良好である。川や水を大切にするという文化がいにしえから受け継がれてきたことが偲ばれ、まさに世界に向けて誇るべき河川と言える。その清流やアユが地域の経済や文化に密接に結びついていること、鵜飼いなどの伝統漁法(なんと1300年の歴史!)が継承されていることは、まさに世界農業遺産にふさわしいと感じる。

その一方で、気がかりな点もある。岐阜市は2015年に長良川の「天然遡上アユ」を準絶滅危惧種に指定した。この指定には多くの反論があるようだが、私は妥当な措置だと考えている。その理由は長良川のアユの放流量の多さで、実に年間40トンにも達している。高知県一県分をはるかにしのぐ量が長良川一河川に放流されているのである。標準的な種苗単価で計算してみると、1億5千万円ほどになる。
これほど大量の放流を行わないとアユ漁が維持できないのであれば、天然アユ資源は低水準となっているだろうし、種苗の無制限な添加が天然の個体群に及ぼす悪影響さえ心配される。なにより、1億5千万円もの種苗放流によって維持されるシステムを「持続可能」と言えるだろうか。

新聞報道によると、長良川から天然アユが減った原因として、長良川河口堰による生活環の分断や河川の環境悪化があげられている。私は河口堰の影響が大きいと考えており、実際、長良川のようにアユの産卵場よりも下流に堰がある河川では、アユが減っているケースが多い。
理由は、産卵場でふ化したアユの仔魚が次なる生息場である海に到達できなくなってしまうからである。ふ化したばかりの仔魚はほとんど遊泳力がないため、浮遊物のように河川水に乗って海に出るしかすべがない。そのうえ、アユの仔魚が餌を食べずに生きていられるのは、わずか3~4日。産卵場から海への途中に堰ができると、その貯水池で水の流れが微弱になるため、海への到達時間が延長される。結果として、タイムオーバーとなり、死亡率が高くなる。これが繰り返されれば天然アユは減少する。

対策はないのだろうか?アユの仔魚が海へと流下する時期に貯水池の流れが速くなるように堰のゲートを操作すれば、海への到達時間が短縮されるため、生残率は高くなると予想される。ただ、この対策はすでに多くの人が提案しているが、実現はしていない。
戦後の河川開発は多くの場合、賛成・反対の対立構造を形成した。「両者が並び立つ」という第三の道は選択されず、開発事業の有する悪影響の代償として漁業補償が行われ、それを原資とした種苗放流という流れが確立してしまった。長良川はその典型的な事例と言える。

世界農業遺産に認定された「清流長良川の鮎」のサブタイトルは「里川における人と鮎のつながり」である。この認定をきっかけに天然アユがたくさん遡上する長良川を取り戻す活動へと発展することを期待したい。その取り組みこそが「人と鮎のつながり」なのではないだろうか。

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