人と、川・アユの関係研究所

人と、川・アユ(意見)

産卵場造成は正しい?

更新日:2014年10月
「天然アユを増やす取り組み」で紹介しているように、産卵場づくりは天然アユを増やすうえで有効な手段のひとつである。例えば奈半利川では、ふ化した仔魚の数は産卵場を造り始めて以降、それ以前の数十倍レベルで増加した(詳しくは「天然アユを増やす取り組み」をご覧ください)。ダムがあって、下流部まで河床がアーマー化したような河川では、造成の効果は絶大である。

しかし、そのような望んだ成果が得られる一方で、課題も見えてきている。 産卵場を造ることは果たして正しいことなのか?奈半利川のような川では、造らなければアユが産卵できなくなることは事実だし、その効果が大きいことも事実なのだが、「アユだけ増えれば良いのか」という批判はいつもいただく。川の中に重機を入れることで、他の生き物の命を奪ってしまうことも少なからず起きるし、川そのものを傷めてしまう(例えば河床低下を促進させる)ことにつながりかねない。そもそも、産卵場造成は対処療法に過ぎず、抜本的な対策とはなり得ない。こんな作業を永遠に続けるのか?

究極の解決策を求めるとすれば、ダムを撤去して元の川に戻すことにまで行き着く。しかし、その中間にダムとアユや河川環境が並び立つことのできる方法はないのだろうか。例えば、ダムに溜まった砂利を下流に流すことができれば、ダム下流の環境は大きく改善することになる。ただ、そのような対策も多大な費用が掛かるため、すぐにできる対策とはならないし、技術的な課題もまだ多い。

結局、産卵場造成は10年ぐらいのスパンで見ると「正しい」と言えるかもしれないが、100年のスパンで見ると、「正しくない」ことは誰の目にも明らかではないだろうか。  
理想と現実の大きなギャップの中で、私自身は、「ともかく必要と思えるうちは産卵場を造り続ける」と決めている。ただし、産卵場造成を美化しないこと、造成によって生じる負の側面から目をそらさないことは肝に銘じておかなければならない。目をそらさなければ、いつかは新たな解決策が見えてくると信じたい。
アユは産卵のために下流の産卵場に集まってきて、やがて死んでいく。そのアユを食べるためにトンビ、シラサギ、カワウ、カラスなどたくさんの鳥やスズキなどの魚も川に集まってくる。アユが増えたことで、それを食料とする多くの動物たちも増えていることも事実で、アユを増やすことは人のためだけというわけではない。

アユ学概論

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