人と、川・アユの関係研究所

人と、川・アユ(意見)

ダムによって濁りが長期化するとアユは減耗する(河川での実態調査から)

更新日:2018年6月
奈半利川でのアユの減耗
高知県の奈半利川は中流から上流に発電用のダムが3つあって、ダムによる濁水の長期化(大雨の後、濁りが1ヶ月前後続く現象)がしばしば起きている。
この奈半利川で潜水目視法によってアユの生息量を毎年5月(アユ漁解禁前)と10月(アユ漁禁漁後)に調べている。そのデータを使って5月から10月の間のアユの減耗率(減少率)を計算してみたところ、2006~2012年の7年間の減耗率は30%~76%(平均56%)まで年によって大きく変動した。

アユの減耗に影響力が強いのは、一般的には人による漁獲なのだが、奈半利川の場合、釣り人(網漁も含む)の数が少ない上に、その人数の変動も小さいこともあって、漁獲数を試算してみると減耗率の変動にあまり強い影響力は持っていないと判断できた。
調べる中で浮上してきたのが濁りで、図のように平均濁度とアユの減耗率は正の相関があり、比較的低レベルの濁度(20~50mg/L)の日数の割合も統計上も有意であった。ところが、その年の最大濁度とは相関が得られなかった。つまり、濁りの強さそのものはあまり関係がなくて、濁度の平均値が高くなるような現象 ―たとえば、濁りの長期化― が起きるとアユは減耗しやすいということになる。
濁りの長期化がアユの減耗につながる理由
濁りが長期化することによって河川からアユが減耗するプロセスとしては、次の3点が考えられる。
1点目は、洪水の際に海域に出たアユが他河川に移動してしまうことである。アユは洪水の際に海域に出ることがあり、その後に濁水が長期化すれば、それを忌避して近隣の河川に移動(遡上)してしまうことが考えられる。
2点目は、 洪水後に濁りが長期化することによる餌不足である。アユの主餌料である付着藻類の生育は、濁度が15 mg/L以上になると阻害され、濁度が13~25 mg/L以上になるとアユの摂餌行動も阻害される。洪水後に濁りが長期化すれば餌となる付着藻類の回復が遅れ、かつ摂餌行動も阻害されることで、飢餓の危険性が高まることになる。実際、奈半利川では濁水が1ヶ月以上続いた後に飢餓状態に陥ったアユが取れることがある。
飢餓状態のアユ。濁水が1ヶ月続いた後に採集 3点目は、濁りの影響による河川内での斃死である。50 mg/L程度の濁水でも、長時間の曝露を通してアユのストレス要因となることから、冷水病などの細菌性疾患に対する感受性の高まり、結果として生残率が低下する可能性がある。濁水が長期化した状態で、例えば冷水病を発症し衰弱した場合、まったく気付かれないままに大量斃死が生じる危険性がある。

我が国の河川にはすでに2,700基を超えるダムが建設されており、奈半利川のように濁水の長期化が問題となっている河川も多い。そのため、同様の減耗が起きている可能性は高い。そのうえ近年ではダムの排砂事業なども新たな濁りの負荷源として加わってきた。近年の降雨強度の強まりに伴い、川が濁りやすくなっていることも指摘されている。このようなことを考えれば、濁りの影響に対しては、より一層の注意が払われるべきだろう。

※この研究の詳細を知りたい方は下記の論文をお読みください。
高橋勇夫・岸野底. 2017. 奈半利川におけるアユの生息数と減耗率の潜水目視法による推定. 応用生態工学. 19(2): 233-243.

アユ学概論

人と、川・アユ(意見)

ギャラリー

※当サイトで紹介した方の組織名・所属等は、執筆時点での情報です。
ページのTOPへ遡上